【文字起こし】鈴木エイト氏に対する名誉毀損訴訟 一審判決文

【文字起こし】鈴木エイト氏に対する名誉毀損訴訟 一審判決文

鈴木エイト氏に対する名誉毀損訴訟

一審判決文をUPしました。

 

鈴木エイト氏は、原告に対する名誉毀損不法行為が認められ、賠償命令が下されました。

よって、鈴木エイト氏の敗訴です。

これが、第一審判決の核心です。

 

令和 7 年 1 月 3 1 日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

令和 5 年(ワ)第 2 5 5 3 2 号 損害賠償請求事件

 

口頭弁論の終結の日

令和 6 年 11 月 27 日

 

判決

原 告 後 藤 徹

同訴訟代理人弁護士 徳 永 信 一

 中 山 達 樹

被 告 鈴 木 エ イ ト

同訴訟代理人弁護士 渡 辺 博

 川 井 康 雄

 久 保 内 浩 嗣

李 春 熙

吉 田 正 穂

井 筒 大 介

郷 路 征 記

河 田 英 正

加 納 雄 二

神 谷 慎 一

 

主 文

被告は、原告に対し、1 1 万円及びこれに対する令和 5 年 8 月 1 日から支払

済みまで年 3 パーセントの割合による金員を支払え。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

 

訴訟費用は、これを 1 0 0 分し、その 1 を被告の負担とし、その余を原告の負担とずる。

この判決は、第 1 項に限り、仮に執行することができる。

 

事 実 及 び 理 由

 

第 1 請求

被告は、原告に対し、1100 万円及びこれに対する令和 5 年 8 月 1 日から

支払済みまで年 3 パーセントの割合による金員を支払え。

被告は、被告の X (旧ツィッター)に投稿した別紙投稿記事目録記載の投稿記事を被告の X から削除せよ。

 

第 2 事案の概要

本件は、原告が、被告の執筆した記事、テレビ番組やシンポジウムにおける発言及びインターネット上のソーシャルネットワーキングサービスである Xに被告が保有するアカウント(以下「被告アカウント」という。)上にされた投稿により、原告の名誉が毀損されたと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害金 1 1 0 0 万円及びこれに対する最後の不法行為の日である令和 5

年 8 月 1 日から支払済みまで民法所定の年 3 パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、人格権に基づき、別紙投稿記事目録記載の投稿記事の削除を求める事案である。

 前提事実(争いのない事実又は後掲証拠(枝番号を記載しない書証は全ての枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により認定できる事実)

当事者

ア 原告は、世界平和統一家庭連合(旧名称「世界基督教統一神霊協会」、以下「本件教団」という。)の信者であり、「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」の代表を務めている(甲 2 0)。

 

 

イ 被告は、平成 2 1 年に創刊されたインターネット上のニュースサイト「や

や日刊カルト新聞」の副代表、主筆であり、平成 2 3 年よりジャーナリスト

として、主に本件教団の諸問題を追及し、政治と宗教、カルト問題、宗教 2

世などをテーマに活動している(乙 1 1)。

 

別件訴訟の提起

原告は、平成 2 3 年、本件教団の信者である原告が、原告の親族、本件教団の信者の脱会を組織的に進めている者らの共謀によって拉致され、監禁され、棄教を強要され、全身筋力低下、廃用性筋萎縮等の障害を負わされたなどと主張して、不法行為に基づき、同人らに対し、損害金合計 2 億 0 1 6 1

万 8 5 27 円の支払を求める訴え(以下「別件訴訟」という。)を東京地方裁

判所に提起し、平成 2 6 年 1 月 2 8 日、同裁判所はその主張の一部を認める

判決(以下「別訴地裁判決」という。)を言い渡した(甲 1 3 の 1)。

この判決に対し、当事者双方が控訴したところ、東京高等裁判所は、同年

11 月 13 日、認容額を合計 2 2 0 0 万円へと増額する判決(以下「別訴高裁

判決」という。)を言い渡した(甲 1 3 の 2)。同判決は、上告棄却及び上告

不受理により確定した(甲 1 4)。

 

刑事事件としての捜査及び検察審査会の議決

別件訴訟に係る事実に関しては、同事件の被告らを被疑者とする逮捕監禁致傷、強要未遂事件として捜査もされていたが、別件訴訟提起前の平成 2

1 年 12 月 9 日、いずれも不起訴処分となっていた。原告は、検察審査会にこれらの処分の当否の審査の申立てをしたが、東京第四検察審査会は、平成 2 2 年 1 0 月 6 日、不起訴相当との議決(以下「本件議決」という。)をした。

(乙 1 2)

 

本件発言①の配信

被告は、平成 2 5 年 3 月 13 日、「やや日刊カルト新聞」に、「“後藤裁判”原告が本人尋問で矛盾を露呈、裁判長も呆れ顔」との大見出しを付け、東京地方裁判所において行われた別件訴訟の原告の本人尋問に関する記事を掲載し、配信した。

同記事は、被告が原告の本人尋問を傍聴して行った取材に基づくものであるが、その中で、「‘‘役者魂”見せつける後藤氏」との小見出しの後の本文に、「“後藤ケース’'は、脱会説得に応じず、逆に“氏族メシア”どして家族を説き伏せるためにマンションに留まり、居直った末に果てにニート化してただ の “引きこもり’'となった男性信者が、役柄を“転換”し“拉致監禁に耐え切った英雄”として統一教会内でスターダムにのし上がったというだけの話だ。実際のところ、後藤氏は引っ込みが付かなくなっているのではないか。記憶の改変が起こる土壌は全て整っている。」との記述(以下当該下線部分を「本件発言①」という。)が記載されている。(甲 2〔2 ~ 3 枚目、乙 1 1〔2 1 ~ 2 3 頁〕)

 

本件発言②の配信

被告は、平成 2 7 年 1 0 月 1 5 日、「やや日刊カルト新聞」に、「統一教会

(家庭連合)名称変更記念イベント密着リポート」との大見出しを付け、本件教団の名称変更記念イベントに関する記事を掲載し、配信した。

同記事は、被告が同イベントの会場の外で行った取材に基づくものであるが、その中で、本文に、「改めて入場する信者を観察すると・・・正体隠し伝道を行なっていた勧誘員の姿も多数確認できた。信者内では有名人の後藤 徹氏も本紙主筆が👉を掛けると手を挙げて応答。」との記述が記載されており、続けて貼付された原告の写真のキャプションとして、「1 2 年間に及ぶ引

きこもり生活の末、裁判で 2 0 0 0 万円を GET した後藤徹・拉致監禁強制改 宗被害者の会会長 本紙主筆の呼び掛けに快く応じる」との記述(以下当該

 

下線部分を「本件発言②」という。)が記載されている。(甲 3)

 

本件発言③の放映

被告は、令和 4 年 8 月 1 2 日に放送された贖賣テレビ放送株式会社の

情報ライブミヤネ屋」と題するテレビの番組(いわゆるワイドショー)の本件教団に関するコーナーにコメンテーターとして出演した。

同番組の中で、別件訴訟の話題となり、司会者から、その取材をしたことを尋ねられると、被告は、「そうですね。裁判の過程でも、統一教会側が信 者を大量動員して、もう傍聴席を埋め尽くしたっていうことがありました。そういうなんか異様な熱気に裁判所が流されたって点もありまして、この原告自体も、もうほぼ引きこもり状態の中、いつでも出ていけるような状態、自分より体格が劣るような母親と 2 人きりの時であっても全く出ていかなかったこともあって、外形的にはほぼ引きこもり状態なのではないかと思われるんですが、そういう訳でちょっとまあ全体的になんか変な感じの流れの裁判だったなと思いますね。」と発言した(以下当該下線部分を「本件発言

③」という。)。(甲 1)

 

本件発言④

被告は、令和 5 年 7 月 3 0 日に開催された「信者の人権を守る二世の 会」

第 3 回シンポジウム(以下「本件シンポジウム」という。)において、ジャ

ーナリストから、「後藤さんは 1 2 年 5 カ月監禁されてました。それについて鈴木エイトさんは引きこもりと言った。これはどうしてなんでしょうか。」と質問されたのに対し、「どうでもいいです。ご自由に受け取ってください。 はい、以上です。」と発言した(以下当該下線部分を「本件発言④」という。)

(甲 4)。

 

本件発言⑤の配信

 

被告は、令和 5 年 8 月 1 日、被告アカウントにおいて、本件シンポジウムの取材に基づく一連の投稿をしたが、その中で、「統一教会は組織的な正体隠し勧誘から伝道目的を隠したまま一般市民を偽装教化施設に通わせ、思考 の枠組みを変容させ信者を“生産”してきた。そんな反社会的団体からの脱会を望む家族と当該信者の話し合いを教団側が「拉致監禁!強制棄教だ!」と被害者面でアピールしているだけ。」(以下「本件発言⑤前段」という。)、「そんな反社会的団体による「被害者アピール」は取り上げる価値もなく「どうでもいい」こと。一般市民の信教の自由(信仰しない自由)を侵害してきた教団が家族からの取り組みを「強制棄教」と非難すること自体がおかしなこと。」(以下「本件発言⑤後段」という。)と記載した投稿をした(以下、「本件発言⑤ 前段」及び「本件発言⑤後段」を併せた当該下線部分を「本件発言⑤」といい、本件発言①~⑤を併せて「本件各発言」という。)。

本件発言⑤は、X において公開されており、本件発言⑤前段は少なくとも

6.5 万回表示され、本件発言⑤後段は少なくとも 1. 6 万回表示された。

 

第 3 当裁判所の判断

争点(2)(本件各発言の名誉毀損該当性)について

本件発言①について

ア 事実摘示の有無及び摘示された事実

本件発言①は、被告が執筆した、平成 2 5 年 3 月 1 3 日付の記事の一部である(前提事実(4))。

原告が、上記記事公表当時、 「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」の代表を務め、信者を本件教団から脱会させるための手段として取られる「脱会カウンセラー」及び家族等による拉致及び棄教のための説得が人権侵害であるとし、これを「拉致監禁・強制改宗問題」としてアピールするデモ行進を主催するほか、国際カンファレンス等に出席して「拉致監禁・強制改宗問題」をアピールするなどしていた事実(甲 3 3、前提事実(1))を踏まえ、一般の

 

読者の普通の注意と読み方を基準として判断すると、本件発言①は、原告が、原告を本件教団から脱会させようとした家族に対し、逆に本件教団の教えを 説くためにあえてマンションに留まったものの、やがてただのニートとなり、自らの意思で自宅に引きこもっていたにすぎないにもかかわらず、本件教団によって「拉致監禁に耐えきった英雄」として扱われて本件教団での地位が向上したとの事実を摘示するとともに、「引っ込みが付かなくなっているのではないか」などと、上記事実を前提にその行為が称賛できるものではないという意見ないし論評を示すものと理解すると認められる。なお、原告は、本件発言①について、原告が、「引きこもり」であるだけでなく、拘束や監禁を伴う強制デイプログラミングによる被害を広く世間に訴える活動を行 ってきたとの事実も摘示するとともに、これらの事実を前提として、原告が監禁被害を装ってその被害を訴えている嘘つきのペテン師であると論評するものであると主張するが、本件発言①の表現そのものにそのような事実が摘示されていたり、論評されていたりするものでないことは明らかであり、一般の読者をして、そのような事実が摘示されていたり、論評されていたりすると理解させるような表現であるともいえない(「記憶の改変が起こる土壌は全て整っている」という表現は、原告が改変された自己の記憶に基づいて活動しているのではないかという被告の意見が示されていると理解させるものであり、嘘つきのペテン師などというものではない。)から、これを採用することはできない。

これに対して、被告は、本件発言①が、全体として、別件訴訟における原

告本人尋問までの審理経過と原告本人尋問での原告本人の供述内容を踏まえて行われた論評に当たる、仮に具体的事実の摘示があるとすれば、その内容は原告が脱会説得に応じなかった事実、原告が家族を説得するためにマンションにとどまった事実、原告が本件教団内で「拉致監禁に耐えた英雄」と評価されているという事実のみであると反論する。しかしながら、本件発言

①における「引きこもり」という表現は、後記イで判示する定義を考慮する

 

と、証拠等をもってその存否を決することが可能な原告に関する特定の事項を明示的に主張するものと理解されるというべきであるから、これを採用することはできない。

 

イ 社会的評価の低下

本件発言①は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すれば、原告が、ニートと化して自宅への引きこもりを継続していただけであったに もかかわらず、自らを、棄教を迫る監禁を耐え抜いた信仰心の厚い人物に置き換え、監禁の被害を訴えて別件訴訟の提訴にまで至ったとの印象を与えるものと認められ、原告の社会的評価を低下させるというべきである。なお、原告は、本件発言①について、原告が、①被害者を装うペテン師で、②本件教団の操り人形に成り下がり、良心に反して「記憶を改変」し、③1 2 年超 の「監禁に耐えきった英雄」を気取る偽善者で、④虚偽のプロパガンダを世間に訴える嘘つきであると誹謗・中傷するものであり、原告の社会的評価を低下させるものであると主張するが(以下、これら①~④の主張を「ペテン師等の主張」という。)、上記アで判示したとおり、本件発言①は原告が監禁被害を装ってその被害を訴えている嘘つきのペテン師であると論評するものでないことからすれば、これを採用することはできない。

これに対して、被告は、厚生労働白書において「引きこもり」が「様々な

要因の結果として、就学や就労、交遊などの社会的参加を回避し、原則的には 6 か月以上にわたっておおむね家庭内にとどまり続けている状態を指す現象概念」と定義されていること(甲 44、乙 1 4)を根拠として、「引きこもり」との表現は、上記の客観的状態を示す価値中立的表現であり、当該当事者の社会的評価を低下させるものではないなどと反論する。しかしながら、少なくとも、本件発言①との関係においては、原告の行動の自由を制約する行為としての「監禁」という表現と対比させることにより、自らの意思で家庭内にとどまる行為としての「引きこもり」との表現が用いられている。そ

 

して、就学・就労が可能であるのにこれをせずに家庭内にとどまり続ける「引きこもり」は、価値中立的表現とはいい難く、社会的評価を低下させる表現であるといえる。したがって、被告の上記主張を採用することはできない。

 

ウ 公共性及び公益目的性

原告の社会的な立場や活動状況については、前提事実(1)のアのとおりである上、本件発言①の当時、原告が別件訴訟を提起し、審理が係属していたことに照らせば、上記摘示事実は、一般社会における正当な関心事といえ、公共の利害に関する事実であると認められる。そして、被告は、別件訴訟を取材してそのような事実を摘示する本件発言①を投稿したのであるから、その目的は専ら公益を図ることにあったと認められる。

 

エ 真実性

確定した別訴高裁判決によると、別件事実の全体について、原告の行動の自由が違法に制約され続けていた(認定事実(1)のイ)のであるから、原告の自らの意思に基づく滞在としての「引きこもり」ではなかったといわざるを得ず、真実であることの証明があったとはいえない。

 

オ 真実相当性

本件発言①は、平成 2 5 年 3 月 1 3 日のものであるところ(前提事実(4))、その時点では、別訴地裁判決は言い渡されていない。

被告は、本件議決(認定事実(2))、口頭弁論期日でのやりとりや尋問内容及び別件訴訟の被告及び被告代理人らへの取材等に基づき発言しているところ(乙 1 1、1 2、2 1〔3 頁目、2 3)、原告の本人尋問を傍聴し‘原告本人供述の信用性が一段と低下したとの印象を受けていた(認定事実(3)のア)。そうすると、別訴地裁判決もされていない本件発言①の時点においては、被告において、上記アで認定した摘示事実の重要な部分、すなわち原告が自らの

 

意思に基づく滞在としての「引きこもり」であったことを真実と信じたことには、相当の理由があると認められる。

そして、上記アで認定した意見ないし論評は、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないことは明らかである。

 

カ 小括

以上によれば、本件発言①は、原告の社会的評価を低下させるものではあるものの、被告の故意又は過失は否定されるから、名誉棄損の不法行為を構成しない。

 

本件発言②及び③について

ア 事実摘示の有無及び摘示された事実

本件発言②は、被告が執筆した、平成 2 7 年 1 0 月 1 5 日付の記事の本文及び貼付された写真のキャプションである(前提事実(5))。同記事には、原告が右手を挙げて挨拶しているように見受けられる写真とともに、そのキャプションとして本件発言②の一部が記載されており、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すると、原告について、12 年間に及ぶ引きこもり生活をしたことにより、裁判によって 2 0 0 0 万円を得ることができたという事実を摘示するものと理解すると認められる。

本件発言③は、被告が出演した、令和 4 年 8 月 1 2 日放送のテレビ番組における被告の発言である(前提事実(6))。同発言は、別件訴訟が話題として取り上げられる中で、被告による別件訴訟の取材について尋ねられた際にされたものであり、被告が主張するように裁判所の判断に対する論評を含むものであるが、「この原告自体も、もうほぼ引きこもり状態の中」から始まる部分については、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断すれば、裁判所の判断に対する論評にとどまらず、原告が、「自分より体格の劣るような母親と 2 人きりの時であっても全く出ていかなかった」という

 

具体的なエピソードによる裏付けをもって、単なる「引きこもり」であったこと、引いては、原告が別件訴訟において訴えていた被害の実態が、自らの意思に基づく滞在としての「引きこもり」にすぎなかったとの事実を摘示するものと理解すると認められる。

なお、原告は、本件発言②及び③についても、本件発言①と同様に、原告が、「引きこもり」であるだけでなく、拘束や監禁を伴う強制デイプログラミングによる被害を広く世間に訴える活動を行ってきたとの事実も摘示するとともに、これらの事実を前提として、原告が監禁被害を装ってその被害を訴えている嘘 つきのペテン師であると論評するものであると主張する。しかし、本件発言②及び③の表現そのものにそのような事実が摘示されていたり、論評されていたりするものではないことは明らかであり、一般の読者をして、そのような事実が摘示されていたり、論評されていたりするとまで理解させるような表現であるともいえないから、これを採用することはできない。

これに対し、被告は、本件発言②の「12 年間に及ぶ引きこもり生活」どの記述及び本件発言③の上記部分が論評に当たると主張するが、上記(2)のアで判示したところと同様、これを採用することはできない。

 

イ 社会的評価の低下

本件発言②は、原告が「引きこもり」生活をしているだけで 2 0 0 0 万円を獲得したことを指摘し、本件発言③は、原告が単なる「引きこもり」であったことを指摘するものであるから、いずれも、原告の社会的な評価を低下させるものというべきである。なお、原告は、本件発言②及び③についても、ペテン師等の主張をしているが、上記(2)のイで判示したところと同様、これを採用することはできない。

 

ウ 真実性

 

本件発言②及び③のいずれについても、上記(2)のウで判示したところと同様、上記摘示事実が真実であったことの証明があったとはいえない。

 

エ 真実相当性

確かに、被告は、ジャーナリストとして活動しており、本件発言②及び③は、その活動を通じて得た認識に基づき引きこもりであるとの事実を真実と信じていたことにより発せられたものといえる。しかしながら、これらの発言は、いずれも別訴高裁判決の確定後になされたものであるところ、原告において本件発言②及び③に及んだ前提は、あくまで本件議決(乙 12)や、別訴地裁判決に係る本人尋問及び証人尋問の結果にとどまり(乙 1 7~20)、別訴高裁判決の口頭弁論終結時より後に認識した新たな資料に基づくものではない。

この点について、被告は、判決の認定事実は、裁判所の評価に過ぎないのであって、裁判所が認定した事実、評価は、それと異なる事実や評価を主張、表現することを許容しないという絶対的真実ではないと主張する。しかしながら、本件発言②及び③の時点において、被告は別訴高裁判決の確定及びその内容も知り得たところ、同判決の認定を覆すべき資料が存在していたと認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告において、原告が引きこもりであると信じたことについて相当の理由があったということはできない。

そうすると、被告の本件発言②及び③が裁判所の認定に批判を向けるものであれば格別、約 3 年もの長期にわたり当事者双方が激しく争った審理の末に言い渡された別訴高裁判決の認定する事実とは異なるにもかかわらず、原告が単なる「引きこもり」であったとの事実を真実であると信ずるについて相当な理由があると認めることはできないから、公共性及び目的の公益性を検討するまでもなく、真実相当性の抗弁は理由がない。

 

オ 小括

 

以上によれば、本件発言②及び③は、いずれも名誉棄損の不法行為を構成

 

なお、原告は、主位的には、本件各発言が全体として一個の名誉毀損不法行為を構成すると主張するが、発言の内容、時期、場面が異なることからすれば、その主張を採用することはできず、個々の本件発言ごとに名誉毀損不法行為を構成すると解するのが相当である。

 

本件発言④及び⑤について

原告は、本件発言④及び⑤が原告の名誉を毀損する表現に当たり、不法行為を構成する旨主張する。

しかしながら、本件発言④は、単に質問者からの質問に対する回答を拒絶する意思を示したものにすぎず、殊更に原告を貶めたり椰楡したりする表現ではない。また、本件発言⑤は、本件教団を批判するものでこそあれ、殊更に原告を貶めたり椰楡したりする表現ではない。本件発言④及び⑤は、一般の聴衆及び閲覧者がこれらの発言に接したときに、原告が単なる引きこもりにすぎないとの事実が摘示されているものと理解したり、あるいは、原告が監禁被害を装ってその被害を訴えている嘘つきのペテン師であると論評するものであると理解したりするようなものとはおよそいえない。

したがって、本件発言④及び⑤には、原告の社会的評価を低下させるような表現が含まれているとは認められない。

よって、その余の点を検討するまでもなく、本件発言④及び⑤に係る損害賠償請求並びに本件発言⑤に係る投稿の削除請求には理由がない。

 

原告の損害額

上記 2 に判示するとおり、被告が、本件発言②を含む記事を「やや日刊カル

 

本件発言②及び③は、別件事実が原告の行動の自由に対する違法な制約であったことを否定するものである一方、その端緒として、被告は、そもそも本件教団の諸問題を追及している中で原告の活動に対して問題提起しようとしていたものであり、原告に対する発言の表現が原告の名誉を毀損する内容にわたるものであるとしても、原告を貶めることだけを意図していたとはいえないものであった。また、本件発言②の主要な部分が原告の写真のキャプションとして短文で記載されたに過ぎないものであること、本件発言③が別件訴訟の裁判所の判断に対する論評を発言した流れで原告に触れたに過ぎないものであることに加えて、原告自身が被告に対して一定の反論をしており(甲 7~10)、自らのホームページなどで直接反論できる立場にあったこと、その他本件に現れた全ての事情を考慮すると、これらの発言による慰謝料は各 5 万円(合計 1 0万円)が相当であると認める。

また、本件発言②及び③と相当因果関係のある弁護士費用は各 500 0 円(合

計 1 万円)が相当であると認める。

 

第 4 結論

以上によれば、原告の各請求は、被告に対し、11 万円及びこれに対する令和 5 年 8 月 1 日から支払済みまで年 8 パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し、その余はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

 

東京地方裁判所民事第 3 4 部

 

裁判長裁判官 一場康宏裁判官 田幡夏海

裁判官 勝又来未子