ディープステートとの戦い方 - 米FBI長官カッシュ・パテル著「Goverment Gangsters」

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2025年2月27日に行われたFBI長官就任式。
アメリカが直面する課題として、暴力的犯罪(殺人、レイプ、薬物過剰摂取など)の増加を挙げ、これを放置せず、司法省とFBIの全力で対処すると強調。国家安全保障についても、国内外の脅威に対して最大規模の追跡を行い、犯人を必ず見つけ出すと誓った。
スピーチは愛国心と使命感に満ちており、パテル氏の個人的な背景とリーダーシップへの決意が強調されている。

この本は、アメリカ政府内に潜む「ディープステート」と呼ばれる反民主的な勢力の実態を暴いている。パテル氏は、ホワイトハウス国防総省、情報コミュニティ、司法省で高官を務めた経験に基づき、腐敗した法執行機関員、情報機関員、軍高官らが結託して大統領を打倒しようとした陰謀を明らかにしている。ディープステートは失敗した後も、国民に対する説明責任を負わずに権力の裏側で操縦を続けていると主張。

ディープステートとの戦い方

以下はパテル氏の提案の主要なポイント:

透明性の強化

政府機関の活動を公開し、国民が監視できる仕組みを作るべきだと主張。例えば、FISA(外国情報監視法)の濫用を防ぐための改革を提案。

説明責任の追及
腐敗した官僚や高官を法的に訴追し、免責を許さないシステム構築。特に、FBIやCIAの内部監査を強化。
権力の分散
中央集権的な官僚機構を解体し、州や地方政府に権限を戻すことで、ディープステートの影響力を削ぐ。
国民の覚醒
メディアの偏向報道に惑わされず、市民が真実を見極める力を養うことが重要だと強調。

パテル氏の歴史観の特徴

パテルが描くディープステートは、単なる官僚の腐敗ではなく、民主主義を意図的に侵食する組織的な勢力と見なし、冷戦期から現代まで一貫した流れとして捉える。

ディープステートの歴史的背景
起源:冷戦時代と国家安全保障の拡大
パテル氏によれば、ディープステートのルーツは冷戦初期に遡る。第二次世界大戦後、アメリカはソ連との対立を背景に国家安全保障を強化。1947年の国家安全保障法で中央情報局(CIA)や国家安全保障会議NSC)が設立され、軍事・情報機関の権限が拡大した。これが後にディープステートとなる勢力の基盤を形成したとパテルは主張する。
当初、これらの機関は共産主義の脅威に対抗する目的だったが、次第に内部の監督が緩み、独自の権力を持つようになった。特にCIAの秘密工作、例えば1953年のイランクーデターや1961年のピッグス湾侵攻を通じて、議会や国民の監視を回避する活動が常態化。パテルはこれを、説明責任を負わない官僚機構の原型と見ている。

ベトナム戦争(1960年代~1970年代)はディープステートの成長を加速させた。パテルは、軍産複合体の影響力が増し、ペンタゴンや情報機関が戦争を長期化させることで利益を得たと指摘する。この時期、FBIのJ・エドガー・フーバー長官が国内監視プログラム(COINTELPRO)を拡大し、公民権運動家や反戦活動家を標的にしたことも、ディープステートの手法の先駆けと位置づける。
1970年代のウォーターゲート事件は、ディープステートの存在を国民に意識させた出来事として挙げられる。リチャード・ニクソン大統領の辞任に繋がったこのスキャンダルでは、FBIやCIAの一部職員が政治的操作に関与していたことが明らかになり、政府機関の不透明な行動が問題視された。パテルは、この事件がディープステートの力を制限する契機にはならず、むしろ彼らが権力を隠す巧妙さを増したきっかけと分析する。

強化と制度化:9/11後の監視国家
ディープステートの歴史における転換点として、パテルが重視するのが2001年の9月11日テロ攻撃だ。この事件を機に、アメリカは「テロとの戦い」を掲げ、国家安全保障の名の下で情報機関の権限を飛躍的に拡大。2001年の愛国者法(Patriot Act)により、NSA国家安全保障局)が大規模な国内監視プログラムを開始し、市民の通信を広範に収集する権限を得た。
この時期にディープステートが制度化され、「永続的な官僚機構」として確立したと主張する。ブッシュ政権下のイラク戦争や、オバマ政権下のドローン攻撃拡大、PRISM(監視プログラム)の運用は、情報機関や軍高官が議会の監督を回避し、独自の判断で行動した例とされる。特にオバマ政権では、NSA長官ジェームズ・クラッパーやCIA長官ジョン・ブレナンが議会証言で監視の規模を過少報告し、その後の暴露でディープステートの不透明性が際立ったとパテルは指摘する。

ディープステートの政治的武器化:トランプ政権への対抗
パテル氏が最も詳細に描くのは、2016年のドナルド・トランプ大統領当選以降のディープステートの動きだ。トランプの反体制的な姿勢は、既得権益を守りたい官僚機構にとって脅威と映った。パテル氏は、ディープステートがトランプ政権を弱体化させる政治的武器として機能したと主張する。
  • ロシアゲート疑惑(2016-2019)
    トランプがロシアと共謀して選挙に勝利したという疑惑は、FBIやCIAが主導し、スティール文書(未検証の情報)を根拠に捜査が開始された。パテルは、下院情報委員会の顧問として関与し、この捜査が証拠薄弱かつ政治的動機に基づくものだと暴露した「ヌネスメモ」を作成した経験を振り返る。
  • マラー捜査(2017-2019)
    ロバート・マラー特別検察官による捜査は、ディープステートがトランプを追い詰める延長戦だったと見る。最終的に明確な共謀の証拠は見つからなかったが、メディアと連携して政権の信頼を失墜させた。
  • 弾劾(2019-2020)
    ウクライナ問題での弾劾は、情報機関の内部告発者をディープステートが利用し、トランプを排除しようとした試みと位置づける。
これらの事件で
  • FBI長官ジェームズ・コミー
  • CIA長官ジョン・ブレナン
  • NSA長官マイケル・ロジャースらが中心的な役割を果たし、「国家安全保障」の名の下に政治的操作を行ったと名指しで非難する。

現代:ディープステートの持続と進化
トランプ政権後もディープステートが弱まることはなく、バイデン政権下でさらに力を増したと述べる。2021年のアフガニスタン撤退の失敗や、1月6日議事堂襲撃事件後の「反乱」叙述の誇張は、ディープステートが軍や情報機関を通じて影響力を保持している証拠と分析する。彼らはメディア、学界、テクノロジー企業とも連携し、情報統制を強化している。