2025年3月25日、東京地方裁判所が世界平和統一家庭連合(旧統一教会、以下「家庭連合」)に対し解散命令を下した。NHKの番組「こころの時代~宗教・人生~」の「徹底討論シリーズ」第10回(2025年3月放送)では、宗教学者や憲法学者ら6人の専門家がこの解散命令の意義を議論した。
しかし、家庭連合の信者や教団関係者の声が一切含まれず、さらには反統一教会勢力による家庭連合信者に対する「拉致監禁」問題という50年間の「タブー」が黙殺された。この不在と隠蔽は、信者の信仰被害を軽視し、議論の公平性を損なう重大な問題を露呈した。本記事では、信者の信仰被害と拉致監禁問題を中心に、NHK討論の危うさと隠された「 タブー」を検証する。
解散命令と信者の信仰被害:見過ごされた個々の実態
解散命令は、宗教法人としての家庭連合の法的地位を剥奪し、活動や財産管理に重大な制約を課す。討論では、被害者の視点として「全世代にわたる被害」や「信者の生活・幸福感への影響」が触れられたが、個々の信者の信仰実態への配慮は不十分だった。
家庭連合の信者にとって、信仰は人生の中心であり、教団の解散は精神的な拠り所を失うリスクを伴う。特に、2009年のコンプライアンス宣言以降に加入した信者や、問題行為に関与していない一般信者にとって、過去の組織的行為を理由に信仰の場を奪われることは、信仰の自由の不当な制限と感じられる可能性がある。
信者の信仰被害は以下のような形で現れる恐れがある:
-
コミュニティの崩壊:宗教法人格の喪失により、教会施設や集会の維持が困難になり、信者同士のつながりが断絶する。
-
信仰実践の制限:献金や宗教行事の自由が法的に制限され、信者が望む形で信仰を継続できなくなる。
討論では、こうした信者の実態が深く掘り下げられず、被害者全体の視点や「公共の福祉」に終始した。これは、信者の信仰被害を軽視するリスクを孕む。信者の生活実態や信仰の変化が考慮されなかった点は、議論の偏りを示す。
教団側の声の不在:田中会長の視点が欠けた議論
討論には、島薗進(東京大学名誉教授)、櫻井義秀(北海道大学大学院教授)、釈徹宗(武蔵野大学総長)、川島堅二(東北学院大学教授)、八木久美子(名古屋外国語大学教授)、齊藤小百合(恵泉女学園大学教授)が参加したが、家庭連合の教団関係者や信者は一人も含まれていなかった。家庭連合の信者の現状を最もよく知るのは、田中富広会長や教務担当者であり、彼らの不在は議論の公平性を損なう重大な欠陥である。田中会長らが参加していれば、以下のような視点が提供できた可能性がある:
-
信者の実態:現在の信者数、信仰生活の状況、問題行為への関与の有無など、信者の多様な声。
-
解散命令への反論:アメリカや欧州で展開する「日本での抑圧」キャンペーンの背景や、宗教の自由を守る主張。
教団側の不在により、討論は被害者の視点や裁判所の判断に偏り、信者の信仰被害や教団の現状が無視された。たとえば、自民党との選挙協力が問題視されたが、教団側の意図や実態を直接問う機会がなかった。これは、視聴者が問題の全体像を理解する機会を奪い、信者に対する社会的な偏見を助長する。
NHK討論の最大の欠陥は、家庭連合信者に対する「拉致監禁」問題が一切触れられなかったことである。ジャーナリスト・米本和広氏によると、1966年から2015年までに約4300人の信者が拉致監禁の被害に遭い、反統一教会勢力による「犯罪ビジネス」が組織的に行われてきた。この問題は、50年間オールドメディアで「タブー」とされ、安倍晋三元首相の暗殺事件(2022年7月8日)後にようやく注目されるか期待されたが、NHK討論では完全に黙殺された。
拉致監禁とは、家庭連合信者を家族やディプログラマー(例:監禁犯・宮村峻)が強制的に隔離し、信仰放棄を迫る行為である。代表的な事例として、後藤徹氏は1995年から2007年まで12年5か月にわたり監禁され、食事制限や虐待により極端な栄養失調に陥り、解放時には車椅子生活を余儀なくされた。米国国務省の人権報告書(1999年~2022年)は、19件の事件、20人の被害者を記録し、国際社会も問題視している。全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、拉致監禁を「保護説得」と正当化し、家族から数百万~数億円の報酬を得る「犯罪ビジネス」を支えたと非難される。
NHK自身もこの「タブー」の隠蔽に加担した。2023年9月23日放送のドラマ「危険なささやき」は、家庭連合元信者・河上陽子(仮名)をモデルに「マインドコントロール」を強調し、彼女の拉致監禁被害を「叔父の説得で脱会」と歪曲した。NHKはNHK党浜田聡事務所の質問に無回答で、放送ガイドラインに抵触するとして批判された。このドラマは、拉致監禁の深刻な人権侵害を隠し、家庭連合を一方的に問題視する偏向報道の典型である。討論でもこの問題が無視されたことで、NHKの報道姿勢の公平性が問われる。
拉致監禁の被害者は、PTSD、自殺未遂、自殺、レイプ被害、親の自殺など深刻な人権侵害を報告。裁判では、最高裁(2015年9月)が宮村峻に1100万円、松永堡智牧師に440万円の賠償を命じ、計画的犯罪性を認定。広島夫婦拉致監禁事件(2020年)でも、281万円の賠償が命じられた。しかし、NHK討論ではこうした事実が一切取り上げられず、拉致監禁被害者の信仰被害が無視された。これは、メディアの偏向と反統一教会勢力の影響力を示す。

専門家の懸念と拉致監禁の無視
憲法学者の齊藤小百合氏は、解散命令の基準拡大に警鐘を鳴らし、公共の福祉を理由に民法上の行為まで取り締まる判断が、権力による集団抑圧のリスクを伴うと指摘した。この懸念は、信者の信仰被害や拉致監禁問題とも直結する。拉致監禁は、信教の自由(憲法第20条)や人身の自由(憲法第31条)を侵害する行為であり、フランスの国際人権弁護士パトリシア・デュバル氏は、解散命令が自由権規約(ICCPR)第18条(信教の自由)や第9条(人身の自由)に違反すると批判。国連人権委員会も2014年に拉致監禁の停止を勧告したが、日本政府は無視している。
しかし、拉致監禁という反統一教会勢力による人権侵害が議論されなかったことで、宗教法人の公益性と信者の権利保護のバランスが欠如した。教団側や拉致監禁被害者の視点があれば、信仰の自由と公共の福祉の両立について、より現実的な議論ができたはずだ。
国際的視点:日本と海外のギャップと拉致監禁の隠蔽
討論では、家庭連合が韓国やアメリカでは市民権を得ており、日本でのギャップが指摘された(八木久美子氏)。アメリカでは、トランプ元大統領の宗教アドバイザーや副大統領が「宗教の自由の侵害」と日本の解散命令を批判。この温度差は、信者の信仰被害を複雑にするが、拉致監禁問題の国際的認知も無視できない。米国国務省は拉致監禁を人権侵害として報告し、米国では1991年のジェイソン・スコット事件でディプログラミングに約7億円の賠償が課され、反カルト団体が破産に追い込まれた。日本の討論が拉致監禁を黙殺したことは、国際社会との認識の乖離を深める。
教団側と拉致監禁被害者の声が必要だった理由
田中富広会長や教務担当者の参加があれば、以下のような視点が提供できた:
さらに、後藤徹氏のような拉致監禁被害者の参加があれば、12年5か月の監禁やその後遺症の実態を訴え、反統一教会勢力の「犯罪ビジネス」を暴露できた。教団側と被害者の不在は、討論を「家庭連合=問題団体」という前提に終始させ、信者の信仰被害と拉致監禁の「タブー」を隠蔽した。
今後の課題:信者の信仰と拉致監禁被害者の声を守る
解散命令は被害者救済の一歩だが、信者の信仰被害と拉致監禁問題を軽視するリスクを伴う。以下の取り組みが求められる:
-
公平な議論の場:教団関係者や拉致監禁被害者を含む多様な視点での公開討論。
-
メディアの改革:拉致監禁問題の報道をタブー視せず、事実に基づく検証を行う。
-
国際的対話:日本での被害実態と拉致監禁を海外に説明し、信教の自由と人権保護のバランスを模索。
結論
