新潟の海辺に響く波音は、北朝鮮による拉致事件の記憶を呼び起こすが、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合、以下家庭連合)を巡る「新生事件」もまた、日本の司法と警察の深い闇を浮かび上がらせる。2009年に発覚したこの事件は、家庭連合関連の民間企業「新世」が訪問販売法違反の容疑で強制捜査を受け、複数の販売員や経営者が逮捕・起訴された刑事事件である。表面上は法令違反の摘発に見えるが、その裏には宗教団体への組織的な弾圧を疑わせる動機が潜む。
事件の背景には、1990年代末から2000年代初頭にかけて、警察が家庭連合を標的とした捜査を意図的に強化した時期がある。オウム真理教事件の余波を受け、警察幹部は「次は統一教会」との意識を固めていたとされる。2000年代に入り、特定商取引法の改正が施行され、訪問販売における勧誘目的の明示、契約書面の交付、威迫・困惑行為の禁止といった細かな義務が規定された。これらの曖昧な基準は、意図的な解釈次第で違反をでっち上げる余地を残す。
新世は、家庭連合の信者が経営する印鑑販売会社で、路上での声かけや店舗への誘導といった一般的な販売手法を用いていた。これは他の印鑑業者と変わらない業界慣行だった。しかし、警察は新世を執拗に追い詰めた。顧客名簿を強制的に提出させ、「ローラー作戦」と称して名簿の顧客一人一人に連絡を取り、「被害届」を出すよう執拗に説得。なかには「支払った代金は北朝鮮に流れている」とまで言われた顧客もいた。多くの顧客が「問題なかった」と証言し、購入に満足していたにもかかわらず、警察の圧力に屈した一部が被害届を提出。これが逮捕の口実となった。
逮捕された販売員の多くは、裁判を避けるため略式起訴による罰金を受け入れざるを得なかった。法廷での争いを選択すれば、長期の勾留や過酷な取り調べが待っていたからだ。ある経営者は、厳しい取り調べの末、救急車で運ばれるほどの心身の疲弊を強いられた。最終的に、新世の社長を含む2名が逮捕・起訴され、懲役4ヶ月の執行猶予付き有罪判決が下された。販売員が罪を認めた後では、経営者に抗弁の余地はほとんど残されていなかった。
この事件の核心は、警察が家庭連合の「組織的関与」を疑い、国策捜査として新世を狙い撃ちした点にある。ノンフィクション作家・福田ますみ氏の取材によれば、警視庁公安部が関与し、家庭連合を潰すための「駒」として新世が利用された可能性が高い。しかし、捜査の結果、組織的関与の証拠は一切見つからず、公安部の目論見は外れた。それでも、逮捕と有罪判決は既成事実となり、メディアは「霊感商法」のレッテルを貼り、家庭連合へのバッシングを煽った。
全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の存在も見逃せない。1980年代から家庭連合を「霊感商法」の主犯と決めつけ、メディアと連携して社会問題をでっち上げてきた。福田氏の調査によれば、1987年の全国弁連発足時、被害者はわずか1人だったにもかかわらず、メディアを動員して「被害者」を水増し。印鑑や食品、絵画など通常の販売行為を「霊感商法」に仕立て上げ、さらには信者の献金まで問題視する戦略を展開した。新生事件は、この一連のキャンペーンの延長線上にある。
司法の場でも、家庭連合は不利な戦いを強いられた。裁判では、原告側が具体的な証拠を提示せずとも、「地獄に落ちる」といった脅迫があったとする主張が通り、家庭連合側の有力な反証は無視された。この傾向は、新生事件に限らず、家庭連合を巡る一連の裁判で顕著である。福田氏は、裁判所が「カルトだと負け」という枠組みに縛られ、公平な判断を放棄していると指摘する。
新生事件は、単なる法令違反の摘発ではない。宗教団体への偏見と政治的意図が交錯し、司法と警察が一体となって組織を追い詰めた国策捜査の典型である。事件から十数年、家庭連合は依然として解散命令の危機に瀕している。日本の司法が宗教の自由をどこまで守れるのか、その試金石となる事件が、今なお重い影を落としている。
国策捜査を裏付ける事実
- 顧客名簿の強制提出:警察が新世に顧客名簿の提出を強制し、ローラー作戦で顧客に被害届を出すよう圧力をかけた。
- 「支払った代金が北朝鮮に流れている」の虚偽:警察が顧客に対し、事実無根の主張で被害届を誘導。
- 圧力による被害届:多くの顧客が購入に満足していたにもかかわらず、警察の執拗な説得により被害届を提出。
- 家庭連合を潰すための駒:警視庁公安部が家庭連合の組織的関与を疑い、新世を標的として利用。
- 目論見が外れた組織的関与の証拠一切無し:捜査で組織的関与の証拠が見つからず、公安部の意図が空振りに終わった。
【国内の有識者】 -
浜田 聡 参議院議員
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増渕 賢一 元栃木県議会議長
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高比良 元 元長崎県議会議員
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美馬 秀夫 徳島市議会議員
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井上 真吾 福岡県北九州市議会議員
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岡田 実 鳥取市議会議員
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田中 剛(仮名) 宮崎県内の地方議員
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林 正寿 早稲田大学名誉教授
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杉原 誠四郎 元武蔵野女子大学教授
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仲正 昌樹 金沢大学教授
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高 永喆 拓殖大学客員研究員
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小林 政和(仮名) 都内私立大学教授
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古屋 憲市(仮名) 国立大学名誉教授
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小川 榮太郎 文藝評論家
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福田 ますみ ノンフィクションライター
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窪田 順生 ノンフィクションライター
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加藤 文宏 著述家
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フマユン・A・ムガール ジャーナリスト
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中川 晴久 主の羊クリスチャン教会牧師
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岩本 龍弘 牧師
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砂川 竜一 つきしろキリスト教会牧師
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溝田 悟士 伝道師、言語聴覚士
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中山 達樹 国際弁護士
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朴 達明(仮名) 在日本大韓民国民団地方本部元団長
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魚谷 俊輔 UPFジャパン事務総長
【海外の有識者】 - 4人の人権活動家による意見書
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ウィリー・フォートレ NGO「国境なき人権」ディレクター
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ヤン・フィゲル 元欧州委員会教育委員
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マッシモ・イントロヴィニェ 宗教社会学者
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アーロン・ローズ 「宗教の自由フォーラム」会長
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パトリシア・デュバル 国際弁護士
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マッシモ・イントロヴィニェ 宗教社会学者
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ポーラ・ホワイト 牧師(現・米国ホワイトハウス信仰局局長)
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ニュート・ギングリッチ 元米国下院議長
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マイク・ポンペオ 第70代米国 国務長官
