2025年3月25日、東京地裁は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対し、宗教法人の解散命令を出しました。しかし、教団側が即時抗告したため、現在(2025年8月時点)東京高裁で審理が進行中で、年内にも判断が出る可能性があります。この出来事は、日本での家庭連合の活動に大きな影響を与えています。
本稿では、韓国の新宗教の歴史的展開と統一教会の位置づけを時系列で整理し、その背景を解説します。情報は、宗教情報リサーチセンターの井上順孝センター長と立命館大学の佐々充昭教授のYouTube対談に基づいています。最新状況は2025年8月の報道を参考にしています。時系列:韓国の新宗教の歴史と旧統一教会の展開
- 1860年頃:朝鮮時代末期の新宗教の萌芽(朝鮮半島、現在の韓国地域)
朝鮮時代末期、崔済愚(チェ・ジェウ、최제우)が神からの啓示を受け、「東学(동학)」という新しい教えを始めました。東学は儒教・仏教・道教を融合した思想で、社会的平等と反植民地主義を強調し、農民の救済を目指す。植民地化の中で民族意識を高めました。この教えは朝鮮半島全体、特に農村部を中心に広がりました。 - 1905年:天道教の成立(朝鮮半島、現在の韓国・ソウル特別市地域)
東学の流れを汲む孫秉煕(ソン・ビョンヒ、손병희)が教団を組織化し、「天道教(천도교)」と命名。民族宗教系の新宗教として、朝鮮の伝統を基盤に独立運動に関与しました。主な活動地はソウル(서울)周辺で、開放後もここを拠点に存続しています。 - 1909年:大韓教(대한교、後の手業教、제단교)の創設と独立運動(朝鮮半島、現在の韓国・ソウル特別市および中国・吉林省地域)
独立運動家の羅哲(ナ・チョル、나철)が「大韓教(대한교、当初は大倧教、대종교)」を創設。檀君(ダングン、단군)を民族の祖神として崇め、国権回復と独立を目指しました。檀君神話は韓国民族の起源を象徴する伝説で、ナショナリズムを基盤とした教え。1910年の日本による朝鮮併合後、教団は解散を強いられましたが、1914年に中国・吉林省(길림성、Jilin Province)に移転し、独立運動を継続。1919年には上海(상하이、Shanghai)の大韓民国臨時政府(대한민국임시정부)に幹部が多数参加し、民族ナショナリズムを広めました。開放後、この思想は李承晩(イ・スンマン、이승만)政権に継承され、現在も一部で影響力を保っています。 - 1909年頃:普天教の形成(朝鮮半島、現在の韓国・全羅北道地域を中心に)
東学に関わった姜一淳(カン・イルスン、강일순)が「好転解(호전해)」という思想を唱え、呪術的な実践を通じて新宗教集団を形成。好転解は宇宙の調和と人間の救済を呪術的に実現する教えで、天地を工事するような儀式を重視。1909年に姜一淳(강일순)が死去後、弟子の車景石(チャ・ギョンソク、차경석)が「普天教(보천교)」を組織化。開放前の新宗教で最大規模(数十万人)とされ、多くの分派を生み、これらを「証山系教団(증산계교단)」と総称します。主な活動地は全羅北道(전라북도、Jeollabuk-do)で、農村部を中心に広がりました。 - 1916年:円仏教(원불교)の創設(朝鮮半島、現在の韓国・全羅南道地域)
朴重彬(パク・チュンビン、박중빈)が悟りを開き、仏教系の新宗教「円仏教(원불교)」を設立。円仏教は仏教の教えを簡素化し、日常の倫理と瞑想を重視した現代版仏教。仏教を基盤に現代的解釈を加え、開放後も全羅南道(전라남도、Jeollanam-do)の益山(익산、Iksan)を本部として存続しています。 - 1910-1945年:日本植民地時代と新宗教の抑圧(朝鮮半島全域)
日本統治下で新宗教は弾圧を受け、特に1930年代後半の神社参拝強制により、キリスト教系地下教会が多数発生。民族宗教系新宗教も地下活動を強いられ、独自の思想が醸成されました。この抑圧は朝鮮半島全体、特に都市部と地方の霊山地域で顕著でした。 - 1945年:開放後、新宗教の急増(韓国中南部、特に忠清南道と江原道地域)
日本の敗戦と朝鮮の開放後、社会的混乱の中で新宗教が急増。忠清南道(충청남도、Chungcheongnam-do)の鶏龍山(ケリョンサン、계룡산、Gyeryongsan、大田広域市・公州市・論山市にまたがる標高845mの山)や江原道(강원도、Gangwon-do)の三陟(サムチョク、삼척、Samcheok、東海岸の都市)で多くの教団が生まれました。鶏龍山は朝鮮時代の予言書で「終末の安全地」とされ、仏教系・民族宗教系の新宗教が集中。三陟は古代からの霊場として知られ、多様な教団が誕生しました。 - 1950-1953年:朝鮮戦争とキリスト教系新宗教の台頭(韓国全域、特にソウルと周辺地域)
朝鮮戦争(한국전쟁)の混乱期に、地下教会から「祈祷院(기도원)」という宗教施設が生まれました。祈祷院は祈りを通じた癒しと啓示を重視した施設。戦争終結後、伝道館(전도관)と統一教会(세계평화통일가정연合)が登場し、複合型大企業形態で発展。これを基に多くのキリスト教系新宗教が分派しました。主な発生地はソウル特別市(서울특별시)と周辺の混乱した地域です。 - 1954年:統一教会の創設(韓国・ソウル特別市)
文鮮明(ムン・ソンミョン、문선명)が韓国・ソウル(서울)で「世界基督教統一神霊協会(세계기독교통일신령협회)」を設立。キリスト教を基盤に再臨論(イエスの再臨を信じる終末思想)や終末論(世界の終わりと救済)を強調し、家庭の統一と平和をテーマにしました。 - 1958年:統一教会の日本進出(日本・東京を中心に)
日本での布教が開始され、1964年に「世界基督教統一神霊協会(세계기독교통일신령협회)」として宗教法人認証を取得。以降、献金勧誘が社会問題化しました。主な活動地は東京(とうきょう)と全国の都市部です。 - 1960年代-1980年代:統一教会の企業化と政治活動(韓国・ソウル特別市と全国)
統一教会は反共運動を通じて朴正煕(パク・チョンヒ、박정희)政権の支持を得、1980年代には30大財閥に成長。言論(世界日報、세계일보、ワシントン・タイムズ)、建設(一和建設、일화건설)、食品(一和、일화)、大学(鮮文大学、선문대학교、忠清南道・天安市に所在)を経営しました。活動拠点はソウルを中心に全国展開しました。 - 1985年:韓国民族宗教協議会(한국민족종교협의회)の設立(韓国・ソウル特別市)
民族宗教系34団体が参加。統一教会は含まれませんが、韓国新宗教の多様性を示しました。本部はソウルに置かれました。 - 1991-1997年:旧統一教会の経済危機(韓国・ソウル特別市と江原道)
1991年頃から企業経営が悪化し、1997年のアジア通貨危機(아시아통화위기)で財閥再編の対象となり、多くの企業を手放しました。しかし、不動産(ヨイド・パークワンタワー、여의도파크원타워、ソウル特別市・永登浦区ヨイドに所在)やリゾート(平昌リゾート、평창리조트、江原道・平昌郡)を中心に復活。2018年の平昌冬季オリンピック(평창동계올림픽)会場としても使用されました。 - 1997年:旧統一教会の名称変更(韓国・ソウル特別市)
「世界基督教統一神霊協会(세계기독교통일신령협회)」から「世界平和統一家庭連合(세계평화통일가정연合)」に変更。キリスト教色を薄め、合同結婚式(합동결혼식)などが批判され、「異端(이단)」や「邪教(사교)」と見なされました。本部はソウルにあります。 - 1998年:韓国新宗教学会(한국신종教学회)の設立(韓国・全国のアカデミックコミュニティ)
新宗教を研究する学会が発足。家庭連合の研究も進み、韓国発祥の新宗教としての位置づけが強まりました。主な活動は大学を中心とした全国規模です。 - 2012年:文鮮明(문선명)の死去と変化(韓国・ソウル特別市)
文鮮明(문선명)の死後、妻の韓鶴子(ハン・ハクジャ、한학자)が総裁に就任。シャーマニズム要素が強まり、韓国土着の伝統を強調。キリスト教から離れ、新宗教としての再定義が進みました。本部はソウルです。 - 2015年:旧統一教会の名称変更(日本)および宗教人口調査(韓国全域)
日本でも「世界平和統一家庭連合(세계평화통일가정연합)」に変更。2015年の韓国人口調査では、宗教信者が43.9%(プロテスタント19.7%、仏教15.5%、カトリック7.9%)、新宗教信者は0.6%。家庭連合の信者数は目立たず、円仏教(원불교、約8.4万人、全羅南道中心)、天道教(천도교、約6.6万人、ソウル中心)、証山系教団(증산계교단)の大倧教理会(대종교리회、約4.1万人)に比べ小規模です。 - 2020年代:コロナ禍と社会的認識(韓国全域、特に大邱広域市地域)
新天地教会(신천지교회、大邱広域市を中心に)がコロナ集団感染で問題化。新天地は終末論を強調し、既存教会を乗っ取る戦術で知られるカルト的教団。家庭連合は企業中心で「危険ではない」と見なされる一方、韓国では異端視が続きます。日本では2022年の安倍晋三(アベ・シンゾウ)元首相銃撃事件以降、批判が高まりました。 - 2025年3月25日:東京地裁の解散命令(日本・東京)
日本での献金被害が認定され、家庭連合に解散命令。教団側が即時抗告し、東京高裁で審理中(2025年8月現在)。韓国では信者数が少なく、他のカルト(例:新天地教会、신천지교회)に比べ影響が限定的です。
- 韓国の社会背景: 韓国はキリスト教(特にプロテスタント)が強く、2015年調査で19.7%を占め、新宗教全体はわずか0.6%。これは、植民地時代からのキリスト教布教と、朝鮮戦争後の混乱で地下教会が台頭した結果です。新宗教は数百あり、統一教会は異端視されるものの、信者数が少なく(推定数万人規模)、他の危険なカルト(例: 新天地教会のコロナ集団感染や教会乗っ取り)が目立つため、相対的に「マイルド」と見なされます。また、統一教会は経済力(不動産・リゾート事業)で社会に貢献し、無宗教者(56.1%)が多い中、否定的イメージは強いが直接的な被害報道が少ない。結果、韓国社会は「宗教の自由」を重視し、解散のような強硬措置は取られず、統一教会は「企業グループ」として存続しています。
- 韓国の地域的文脈: ソウルを中心とした都市部と、鶏龍山のような地方霊山が新宗教の拠点。植民地時代(1910-1945)の抑圧と朝鮮戦争(1950-1953)の混乱で、民族宗教やキリスト教系新宗教が急増。統一教会はソウルで生まれ、反共思想で朴正煕政権(1960-1970年代)と結びつき、財閥化(1980年代に30大企業)。アジア通貨危機(1997年)後も不動産(ヨイド・パークワンタワー)で復活し、平昌オリンピック(2018年)会場提供で貢献。地域的に、韓国は南北分断の緊張下で「統一」をテーマにした教団が受け入れやすく、シャーマニズム(土着信仰)の影響で多様な新宗教が共存。統一教会は「韓国発祥の新宗教」としてアカデミックに研究され(韓国新宗教学会、1998年)、高齢化する他の新宗教と異なり存続。